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2014.07.21

PLAGUE INC./伝染病株式会社の"EVOLVE"というPC展開戦略

2年前のBitSummitで、TengamiをつくったNyamyam東江亮氏とお会いした際に、今やってるゲームを聞いたところ、「病原菌をつくって感染させて、世界中の人類を殺したらクリアっていうゲームが面白いですよ」と言われたのが、この作品との出会いでした。この人、なんてこわいゲームをやってるんだろうと思いましたが、ものすごいヒット作になったインディー作品です。
さて、もともとプロトタイプ自体はわずか5日間で開発された、冗談半分で開発された本作ですが、開発したNdemic Creationsの代表者James Vaughan氏は、実はもともと経営コンサルタントなのですね。ゲーム開発は、趣味で始めたそうですよ。氏はいかようにして世界中に感染せしめ、ついにはコアなゲームファンを感染させるに至ったのかをまとめてみました。
Plague Inc. Evolved

Plague Inc. 伝染病株式会社


さて、改めて最初にちょっと作品のご紹介を。『Plague Inc.』は、ロンドンに拠点を置くイギリスのインディークリエイターNdemic Creationsによる処女作です。これまでのプレイヤー数は2500万人以上。日本語タイトルは、『伝染病株式会社』。タイトルが直訳過ぎて、一瞬大丈夫かな?と心配になりますが、ゲーム内のローカライズはなかなかクオリティが高く、きちんと整理されて書かれています。プレイには何の支障もないでしょう。

好きな病原体をつくろう

このゲームのいいところは、病原体に名前がつけられることです。どんな名前でも構いません。人類VSピロリ菌でもビフィズス菌でも大腸菌でももやしもんでも何でもいいのです。クリア後は結果をTwitterでシェアできる仕組みになっており、タイムラインを見ていたら時々ヘンなもんに人類が滅亡させられていて、未プレイヤーへの強烈な興味喚起となっています。広報力に乏しいインディーにとっては、こうしたSNSを活用する施策は必須かもしれません。『片道勇者』なんかは死亡原因とか到達距離とかがツイートできますね。

国・地域を選ぼう

ゲームはひとつの病原体を世に放つところから始まります。
国及び地域を選択するのですが、国によって、傾向があります。暑い気候、寒い気候、乾燥した土地、湿潤の土地。家畜が多い国、ネズミが多い国、裕福な国、貧しい国……。日本なんかはなかなか広まりません。さて、たくさんの人に広まったり、新たな国に広まったりする中で、DNAポイントというのがもらえるバルーンが出現します。バルーンをタッチすることでポイントを集めましょう。そして、世界の状況、国の環境に対して、ポイントを使ってウイルスを進化させることで、うまく感染を広げていきましょう。愛を誓う合うキスイベントとかが時々開催されるので、キスで感染しやすくなるようにしておきましょう。コノヤロコノヤロ、移りやがれ。
 
つまりは、状況に応じてリソースをいかに配分するかというストラテジーゲームです。新たな国に感染した際にポイントがもらえることから、感染しきったゲーム終盤はポイントが尽きがちになりますので、要注意です。
感染力・危険度・致死率を高めていけるのですが、どんどん病が広まっていくと人類はやがてこの病の存在に気づき、薬をつくり始めます。今度は、この薬が完成するまでの時間との戦いになります。薬の開発を遅らせたり、より早く人類に広めたり、殺傷力を高めたり。この選択によって、感染の行方が決定していきます。

ゲームの結末

クリアは、全人類を感染させて絶滅させること。
ゲームオーバーは、感染者がいなくなり、人類が生き残ってしまうことです。
感染者がいなくなる経緯には2パターンあります。

  • 人類が治療薬を完成させて絶滅前に全世界に配備を完了させてしまう。
  • 感染力を致死率が上回ってしまい、感染し尽くす前に感染者を殺してしまう。
前者はともかく、後者は気をつけましょう。
人類はなかなかしぶとく、全世界の研究者が力を合わせて治療薬を開発する辺りは、人間ってすごいなと思います。また手を洗うだけで感染しにくくなり、普段から手荒いうがいしようという気持ちになります。
クッキークリッカー』のような放置ゲーの雰囲気も持ちつつ、わりと重厚なシミュレーションゲームのような趣もありつつ、いや、でも結構カジュアルにやれちゃうところもあって、何よりゲーム画面は世界地図と動き回る船舶と飛行機だけで「バイオテロ」をやるというこの尖りきったスタイル。ヒットの要因をいっぱい持ってる、素敵なインディータイトルです。だいぶと今さらですが、プレイされてない方には、ぜひお勧めの一作です。

課金のシステム

本作にはゲーム内課金がありますが、基本的にゲームを進めていく中でゲットできるものを、先に買えるシステムになっており、課金しないとどうしようもないじゃん、というタイプのものではありません。特に誰も不満を感じない、ゲームシステムにも無理を生じない課金方式ですね。売切りのお値段で存分に楽しめます。
ゲームをクリアする度に、病原体をパワーアップするためのDNAをゲットできます。これを組み込むことで、より強力な病原体になります。プレイするたびに病原体が強くなるので、リプレイし続けてしまい、極めて中毒性の高いゲームとなっています。ワンプレイが30分くらいですので、延々と人類を絶滅させ続けてしまいます。

展開プラットフォーム

App Store

iPhone/iPod/iPad対応

Google Play / Amazon Appstore

Andoroid対応

『Plague Inc: Evolve』という感染戦略

さて、本作は現在PC版、MAC版でSTEAMで早期開発作品としてリリースされています。(やがてはXbox Oneでも予定されているようですね)


多くのインディーゲームが、小さなプラットフォーム(主にはPC)から始まり、そこでの実績をもって少しずつ広いプラットフォームへと広げていくのに対し、ケータイアプリから始まったゲームがPCプラットフォームへ、という流れは一度どういうやり方でやってるのか調べたことがあるのですが、ほぼ見当たらずかなりレアなケースです。
にもかかわらず、『Plague Inc.』は広大なプラットフォームで一気に広げた後(ちなみにプレイヤー数は2500万人以上だそうで)、狭いけれどコアなところへ深く広げていく戦略を取っています。そして、その戦略は功を奏しており、STEAMにて早期開発でリリースされているのですが、相当長期にわたってランキング上位に位置しています。マルチプレイやオリジナルコンテンツをつくったりといった新機能が搭載されていたり、グラフィック面が強化されてはいるものの、内容自体はほぼアプリ版と変わらない内容にも関わらず。14.99ドルという結構なお値段であるにも関わらず。(アプリは100円!)
このゲーム自体、一回全世界に感染を広げてから致死率を高めていくという基本的な攻略方法があるのですが、あたかもそれに沿ったような戦略を取っています。アプリでカジュアルな価格でライトゲーマーを引きつけてから、しっかりつくり込んである程度の価格でコアゲーマーを刺していく手法は、まさしく『Plague Inc.』の戦術そのものなのです。
まあ、それはさておき、宣伝と割りきって、アプリ側で一気にまずプレイヤー数を広めたのみならず、プラットフォームを変えてさらに転がしていくという手法はなかなか見事であると思います。
最後にちょっと脱線しますが、こうしたやり方は、日本にもちょっと似たパターンがあります。それは、フリーホラーゲームですね。『青鬼』や『ゆめにっき』のような、フリーゲームで広げて、メディアミックスしていくパターンです。『青鬼』は映画化され、『ゆめにっき』はグッズ展開だけでなく、ノベル化、コミック化が行われました。こちらは、フリーゲームつくった段階ではそこまで考えてなかったでしょうが。
いずれにせよ、これまでは、広まったはいいけれどどうやってビジネスになり得るの?という問いに対して、ビジネスにする手段、方法が出てきたことで、アプリ発などカジュアルなカタチで広めてから、よりコアな層へと展開してヒットを生み出すゲームはこれからも多くなり、インディー開発はますます自由度を増していくことかと思います。

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