
2012.05.21
先日doope!様でも掲載させていただいた、PLAYISMでの『Dear Esther』日本語版配信を記念し、本作のプロデューサーでありシナリオを手掛けたthechineseroomのDan氏と、アート、デザインを担当したRob氏に特別インタビューを、当ブログでも掲載いたします。

非常に興味深いお話を聞くことができましたので、Dear Estherをプレイした方、これからされる方、ちょっと興味のある方はもちろん、ゲームを開発されている方、なんかにもぜひご一読いただきたいです。
この度は、貴重な機会をいただき、ありがとうございます。お二人のことを最近初めて知った方も多いと思いますので、まずは自己紹介をお願いします。
Dan
イギリスのブライトンを拠点とするインディーズゲームスタジオ「thechineseroom」のDan Pinchbeckです。2007年にMOD開発のチームとしてスタートしました。『Dear Esther』が初めての商業作品となります。私とJessica Curry(本作のライター兼作曲家)の2名で運営しており、ストーリー、ユーザー体験、感情的な体験に重きを置いたゲーム開発をしています。それと、本作では「LittleLostPoly」のRobert Briscoeとコラボし、彼に全アートとデザインをつくってもらいました。
Rob
そう、Danの言うとおり『Dear Esther』は私とthechineseroomとのコラボ作品です。LittleLostPolyと名前はついているけれど、今のところは私ひとりの会社です。ゲーム開発は2004年から携わるようになりました。
マップ造りからスタートし、後に環境アーティストとして『Mirror’s Edge』の開発に参加。その後、ちょっとクールダウンしたいなと思いながらも、休んでいる間に気が抜けてしまわぬよう、『Dear Esther』のリメイクを始めました。やっているうちに、ちょっとした活動の域を超えて、結局現在の『Dear Esther』が完成しました。
ありがとうございます。さて、では早速本題に。パズルやアクションといった一般的なゲーム性がなく、ただ孤島を探索して回るという極めて独創的な『Dear Esther』のコアアイデアを思いついた経緯について教えていただけますか?
Dan
『Dear Esther』は、元々2007年にイギリスのポーツマス大学で研究用に開発したものなのです。ファーストパーソンゲームのストーリーテリングやゲームプレイについて調査しており、一般的なFPSの要素をすべて取り除いても、なおプレイヤーに興味を与えられるのか、について研究したかったのですね。それで『Half Life 2』MODとして開発し、そのダウンロード数は10万回以上に及びました。それで、十分に興味を与えることができる、とわかりました。

HL2 MOD ver.のDear Esther

boreray島

FPSのパイオニア的作品 DOOM
今「thechineseroom」が取りかかっている『Everybody’s gone to the Rapture』について教えてください。現時点で発表されている内容では、ゲームプレイは『Dear Esther』に似ているが、最大の違いはオープンワールドである、ということだそうですが。

Everybody’s gone to the Rapture
ありがとうございます。今度は『AMNESIA: A MACHINE FOR PIGS』について教えてください。他のタイトルと違って黙示録の後ではなく、黙示録その日に設定したのは面白いですね。その辺りについてお話いただけますか?
Dan
うーん、そうですね……。ストーリーの前提としては、普通の田舎町に住む普通の人が、どのように黙示録に対応するか、ということでしょうか。ほとんどの人は、そういう出来事を把握することさえ難しいと思うんですね。自分の日常生活のことをまず考えますから。「今日は子どもの学校が休みだけど、仕事にいかなきゃダメだから誰かに預けないと」とかね。たいていのゲームは、世界の終わりに1人のヒーローが現れるとか、非日常的な出来事を描きますよね。でも、今回はそういう世界の終わりに直面した時の、日常の勇敢さや愛、小さい物語に集中したいんだと思います。その小さい物語があるからこそ、私たちは人間なんだと思うんです。
あとは……、以前商店街で子どもとはぐれたことがあって、まあそれは洋服のラックに隠れていただけだったのですが、本当に一瞬、実際に世界が止まったような感じがして。世界が黙り込んで、地球がもう回らなくなって、時間も止まって、その瞬間、全ては動かなくなる。そういう、世界が終わったと感じたことは皆生きている中で一度くらいはあると思いますが、日常と世界の終わりというアイデアの中で、このゲームは単にその瞬間を掴もうとしているんじゃないか、とも感じています。
今回、『Amnesia』でFrictional Gamesとコラボした経緯はどのようなものだったのでしょうか?
Dan
元々私が『Amnesia』の前の『Penumbra』 からのファンで、『Amnesia』もすごく期待していた作品でした。それで、Frictionalの方はうちが2009年に作った『Korsakovia』というホラーMODを気に入っていたみたいで。それで、前の『Amnesia』が出る少し前から話するようになりました。当時彼らは新作に力注いでいて、次の『Amnesia』シリーズは他のスタジオと組むことを検討していたんです。それで、ゲームとかホラーとかストーリーに対する考え方が一致して、じゃあ一緒にやろうかという話になりました。私は彼らの大ファンでしたから、ぜひやりたいと即答しましたけどね。私たちにとって大きなチャレンジだし、重圧もあるけれど、でも、いい調子で進んでいますよ!
ちなみに『Amnesia』のファン達によるMODの量・質には驚かされましたが、新作の開発にあたり、そこからインスピレーションを得るということはあるのでしょうか?
Dan
うん、『Amnesia』のMODは実際にいくつかプレイしてみましたよ。でも、ゲーム開発をしていると、ゲームを遊ぶ時間が本当になくって……。もっとやりたいんですけどね。でも、長い長いホラーゲームの歴史があって、それをずっと調べたり学んだりしてきましたから、新しい発見やアイデアはその蓄積から生まれてきますね。最後にちょっと軽い質問をいろいろ投げかけてみたいなと思います。
先日ちょっと話題になった質問で、気を悪くしたら申し訳ないけれど、あえて聞かせてください。最近の日本のゲームについてどう思いますか?
Dan
私が思うのは、何よりその質問自体が少し誤解を招くものだということですね。というのは、最近の日本のゲームをひとくくりにして話す、なんてこと自体がそもそもできないですから。モバイルもあれば、カジュアルゲームもあるし、アプリだってある。一方でAAAの大作ゲームがあって、それはインディーズ系のゲームともまた全く違うでしょう?だから、そういう発言自体がおかしいと思う。自分の分野はサバイバルゲームとホラーゲームだから、そのことについては何も言えないですね。それで、その分野についての話だけど、日本の昔のホラーゲームが私は本当に大好きなんですね。でも、海外でのシェアを拡大するために、最近は何か大切なものがなくなっているようにも感じます。それは、日本と海外、まあ、はっきり言うとアメリカなんだけど、そことのトーンの違い、文化の相違ですね。それがあったからこそ、面白かったのになと思います。本当に残念。
私が東ヨーロッパを愛している理由もそうで、あそこにはまったく異なる文化から生み出された、どことも違うものがあるから。日本にも何回か行ったことがあって、すばらしい国でおもしろい文化と世界観をもっていると思う。開発者はそういうものをゲームの中核に持つべき。例え世界の市場が狙いでもね。
ただ、最近のすべての日本のゲームは、海外のゲームと競争できないというなんて考えは、大雑把すぎて馬鹿げた発言だと思いますね。
Rob
Danと同じですね。「最近の日本のすべてのゲームはこう」っていうのは、了見の狭い発言だと思う。それに、欧米のAAAゲーム業界が続編とシリーズばかりつくっている今、日本のゲームがどうこう、という発言はおかしいと思う。海外のゲームが日本より多彩とも思えないし。Danが言った通り、それぞれの地域ごとのユニークな要素は、ゲーム作りに活かせると思います。日本のサバイバルホラーは、欧米やハリウッドの典型から外れたところにあるから、大好きですね。確かに、巨大な欧米のゲーム市場でシェアを広げたいという思いはわかるけど、西洋のゲームをまねる必要はない。
答えづらい質問に答えていただき、ありがとうございます。では、好きな日本のゲーム作品はありますか?
Dan
やはり昔のサバイバルホラーゲームですね。全部が全部、本当にすごかった。完成度が高く、妥協は一切ない。ゲームプレイとストーリーのバランスも最高で、半分くらいはわからないようなものもあるんだけど、それでもとにかくものすごく怖くて心を引きつけられる。そうそう、先日、中古の『バイオハザード2』を見つけたんですよ!急いで家に帰って、PS1を引っ張り出して、一気にクリアしました。あれは本当に素晴らしいゲームです。これって、日本のゲーム全般にとっておもしろいことだと思っていて。ハリウッドは、まだまだ日本のホラー映画から影響を受けていますよ。日本は本当にすごいホラーをつくる。もしかしたら、島国だからかもしれないですね。イギリスも伝統的なホラーをつくるのが上手いんですよ。
だから、日本から、ハードコアのホラーがもっと出てきてほしいですね。真っ先に買いますよ。
Rob
私は昔の格闘ゲームが大好きです。一番好きなのは1987年にテクノスジャパンがつくった『ダブルドラゴン』。あと、『ファイナルファイト』『ストリートファイター2』などですね。もうちょっと最近の作品だと、やっぱり『バイオハザード2』ですね。なぜかわからないけど、あのゲームはものすごく響く作品で、いつでもプレイできるように、未だに机の中に置いてあります。
日本のインディーズゲームで『ゆめにっき』という作品があるのですが、PLAYISMのチームメンバーのひとりが、物語を明示せずプレイヤーの想像力を刺激させるという作品の構造が『Dear Esther』とよく似ていると言っていたのですが、『ゆめにっき』はご存知ですか?
Dan
恥ずかしながら、初めて知りました……(本当に開発で手いっぱい)。だけど、今から探してみます!
Rob
私も知らなかったから、さっきYouTubeで見てきたよ。好きなタイプのゲームだね、プレイしてみます!素敵な作品なので、ぜひプレイしてみてください。
近い作品、という話だと、『Dear Esther』はある意味日本のビジュアルノベルに近いのかなと思いましたが、ビジュアルノベルをプレイしたことはありますか?
Dan
見たことはあります。でも、私たちが重視しているのはファーストパーソンゲームならではの、直接ゲームの世界に投げ込まれて、完全に没頭する体験なんですね。プレイヤーは、その世界の真ん中に立ってほしい。だから、枠のあるゲームというのはあまり好きじゃないんです。ゲーム内のムービーとかもそう。プレイ中に、これは現実とは違う世界だなと少しも感じたくないのです。だから、私たちも没頭できる世界を創り上げたいのですね。
では最後に、日本のファンに向けてメッセージをお願いします!
Dan
皆さんありがとう!ゲームをつくったこと、そして今後もつくり続けること、すべては皆さんのためです。今回の『Dear Esther』を楽しんでもらえると、とてもうれしいです。次の作品にもぜひ期待してください。
Rob
この作品が日本の人たちにも楽しんでもらえるなんて、本当にワクワクしています。風の吹きすさぶ孤島での探索を、ぜひ楽しんでください!