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2015.11.27

ビジュアルノベルの傑作『ファタモルガーナの館』を生んだノベクタクル縹けいか氏インタビュー

インディーゲームは、ゲームそのものもさることながら、作家性の高いものですので、そのゲームをどんな人がつくったのか?どんな想いでつくったのか?どうしてインディークリエイターになったのか?というつくり手のことも気になったりしますよね。
PLAYISMでは、つくり手さんのことや、つくっている時のことをもっと掘り下げた形でゲームを応援していければ、と思いまして、試しに行った前回のWOLFさんのインタビューが好評でしたので、第二弾として『ファタモルガーナの館 -Another Episode-』をPLAYISMでリリースいただいたばかりのノベクタクルの代表縹けいかさんに根掘り葉ほり聞いてみました。
ノベクタクル縹けいかさんのロゴ
 

はじめに

ノベクタクルさんとの付き合いは、縹さんから『ファタモルガーナの館』をPLAYISMでリリースしたい、とご連絡をいただいたことから始まります。
当時PLAYISMにノベルゲームはひとつもなく、欧米諸国でもノベルゲームはゲームではないというのが風潮でしたので、正直なところリリースにはちょっとネガティブだったのですが、一章から圧倒的に面白い上に読み進めるほどに凄みが増していき、圧巻のフィナーレではついに泣いてしまい、これは断るわけにはいかんと配信させていただくことになりました。
PLAYISM初のノベルタイトル ファタモルガーナの館
 
今回お話を聞きまして、改めて縹さんのバイタリティの強さを感じました。現在同人ノベルゲームが置かれている状況は決して明るくないそうですが、大変ですよーと言いつつ、どこか楽しそうでもありました(そんなこと言うと、怒られるかもしれないけど)。
書かれるお話は悲劇的なものが多いですが、ご本人は悲観的とかそういうものとは程遠く、これから先全然違う物語もつくられるのでしょう……たぶん。また、なかなか経歴が面白く、話が弾んで、あちこち関係ない話をしながら3時間にも及ぶインタビューとなりました。それでは、インタビューをお楽しみください。

全然ゲーム一直線ではなくて、結構ふらふらしてましたね。

ノベルゲームを中心に制作している自主製作チームのノベクタクル代表縹けいかです。東京生まれ、東京生まれ育ちで、今は千葉に住んでいます。
ノベクタクルはもともとPlay by webというネットでTRPGをするサイトで知り合った友人同士の集まりです。靄太郎さんは絵が上手くて、Mellok’nという音楽が作れる子がいて、あと、がおさんが歌を歌える、ということで、じゃあこのメンバーで何かやってみるかという感じで始まりました。
ですので、企画を立ててメンバーを集めたのではなく、最初にメンバーありきで企画を立てた形になります。
小さい頃から言わばゲームの英才教育を受けて育ちました。両親がエンターテイメント好きで偏見がなかったので、ゲームがすごく揃った家でした。幼稚園児の頃から『女神転生』を遊んでいましたね。
パソコンにさわったのも早かったんです。小学生のころ、PCゲーマーの叔父さんが勝手に貸してくれた『ルナティックドーン』とか『プリンスオブペルシャ』を遊んでいました。本は『スレイヤーズ』とかのガチガチのライトノベルも読んでいましたが、特に好きだったのは漫画とゲームでしたね。『レベルE』が好きでした。
ただ、『スレイヤーズ』の丸パクリみたいな小説を書いたりはしていて、シナリオライターのマネごとはその頃からしていました。
協調性が学べないまま育ってしまったのか(笑)、中学、高校くらいの時から学校に行かずに友人と自主制作映画を撮ったりしていました。役者と脚本家をしていましたね。
そのくらいの時にWOLFさんみたいにパソコン系の雑誌とかに出会っていたらまた道が変わっていたのかもしれないですが、私はサブカルかぶれの方に行ってしまったんですね。
それから、何がしたいというわけでもなかったのですが滑り止めに受けた大学の国文学科に行って、在学中にイタリア留学をしました。向こうの大学に入りたいと何故か思うようになって。イタリア語の国家資格を取ったり。そこはスゴイ頑張ったんです(笑)。
で、日本に帰ってきて、まあいろいろゴタゴタあって大学も辞めてしまい。イタリア語を生かす仕事も探して、実際に向こうの友達が日本人向けの旅行アドバイザーの仕事を紹介してくれたりもしたのですが、どうにもやる気が起きないし、ビザとかも結構厳しくて。これは辛い未来しか見えないなあと思って断念しました。
それで、人づてで紹介してもらったライター仕事をしたりしてました。企業の宣伝の一環で、短編小説をwebで公開する企画があって、それを書いたり。旅とかドライブとかテーマにしたものです。名前も出ない、ホントにただのアルバイトでした。あと、個人ホームページで話を書いたりもしてましたね。これも全然人気があったわけでもないです。
……だから、全然ゲーム一直線ではないんですよ。20代前半までは、アウトローな感じで道を外して生きてました。お前は何がしたいんだっていう感じで、結構ふらふらしてましたね。

このままだと、何もできずに終わる。だから、何かやらねばならない。

日本で就職するんだったら、もともと好きだったゲームしかないなとは思っていました。でも、新卒でもないし、中途採用で未経験で入れるところとなるとオンラインゲームの運営会社しかなかったんですね。
そしたら、ものすごいブラック企業で。とにかく誰も何もやらない(笑)。普通オンラインゲームってちょっとしたトーナメントを開いて優勝者にはアイテムをあげるとかイベントをやるんですが、本当に誰も何もやらなかった。だから、全部一人でやってましたね。カスタマーサポートもイベント運営もプランニングも。
キツかったですね、ホントに休めなかったんですよ。でも、それが初めての社会人経験だったので、世の中そういうものなのかなと(笑)。
1年半くらい勤めていたんですが、限界が来てしまいました。それで、まあ今思うとその会社がひどかったんですが、自分にはゲーム会社で働くことが向いてないんだろうと。会社にいても未来への展望が一切見えなかったんですね。
このままだと、何もできずに終わる。何かやらねばならないと。何か自分のものをつくらなければいけないんだ、一念発起しよう、みたいな感じでしたね。
それでネットのTRPG仲間とノベクタクルをつくろうとなりました。メンバーがどうだったかわかりませんが、こちらの心積もりとしては本気だったんです。

『ファタモルガーナの館』は、当時できることを突き詰めた結果。

『ファタモルガーナの館』に行きついたのは、『逆転裁判』とか『ダンガンロンパ』、『かまいたちの夜』とかがもともと好きだったのはあります。ただ、ノベルゲームを愛してるあまりにつくったというわけではなくて、集まったメンバーで誰もプログラムができなかったので、ノベルゲームしかつくれなかったんですね。だから始まりは結構消極的な選択だったんです。でも、今はノベルゲームすごく好きですよ。
もともと洋風なものとかファンタジーっぽいものとかも好きだったんですが、最初はSFバトルものがやりたかったんです。やりたかったけど、工数を考えるとバトルものじゃなくてヒューマンドラマの方がいいだろうと。
それに、靄太郎さんの絵も洋風なものの方が適していますし。だから、ノベクタクルのメンバーでその当時やれることを突き詰めていくと、『ファタモルガーナの館』になった、という感じですね。

自分たちのこれからを変えるために、自分も靄太郎さんも良いものをつくらなければいけなかった。

『ファタモルガーナの館』の一章を出したのは2010年末のコミケだったんですが、それまでに2年掛かりました。というのも、会社を辞めてから2、3カ月で貯金がなくなってしまいまして。それで、先日の Indie Stream Fesみたいなゲーム業界人が集まるパーティーに行き、とあるアプリのシナリオで声が掛かったんですよ。
それをこなした結果、そのディレクターさんからさらに大きなプロジェクトを振られて。やる? って言われたら、まあ、やります! って言いますよね。当時はまだまだ精神面でも幼くて、ディレクターさんにも、会社のチームにも迷惑をかけてしまった部分も多かったと思うのですが、あのチームに関われたことはすごくプラスになりました。
そんな感じで、仕事をしながら『ファタモルガーナの館』をつくっていましたので、ちょいちょい話し合いをしつつも進んでいない、というグダグダの状態が2年ほどありました。
同人サークルってメンバーからまず固めると上手くいかないことが多いんですが、ノベクタクルはまさしくそのタイプだと思います。でも、ノベクタクルはゲーム単体で生計を立てようというよりも個人のものをつくっていこうという意志が強いと思うんですよ。フリーランスの集団が集まっている、という感じですね。そこは他のインディーの方とは違うところかもしれませんね。
ノベクタクルの利益で生活していくわけではないので(まあ、現状は仮にそうしたいと思っても出来ないですが)、インディーというか、いわゆる普通の同人ゲームサークルといえると思います。つくるときは結集して、つくらないときはそれぞれ作家なりイラストレーターなりとして活動していくのが理想だなと。当時はその土台として、『ファタモルガーナの館』があれば良いと思っていたんです。
もちろん純粋につくりたいのもありましたけど、今後の人生設計的に、自分はこれだけのお話が書けるんだ、これだけの絵が書けるんだ、という良いプレゼン作品が必要だったんですね。自分たちのこれからを変えるために、自分も靄太郎さんも良いものをつくらなければいけなかった。だから、『ファタモルガーナの館』を完成させられたんだと思います。

アナザーエピソードに至るまで

 
ノベクタクルの最新作 ファタモルガーナの館 -Another Episode-
以前からファンの方からファンディスク的なものがほしいという要望はいただいていましたのですが、内容をどうするかすごく悩んでました。ファンディスクっていうと「みんながわいわいして楽しいゲーム」っていうイメージがあって、でも正直それはあんまり書きたくないというか、プレイヤーさんの間で想像して欲しいところだったんです。
で、じゃあ自分たちが作りたくて、ファンの人も見たいと思ってくれるエピソードって言ったら、と考えていって今回のシナリオを思いついたんですよ。これなら中篇くらいの面白いものがつくれるんじゃないかと。
『Another Episode』のメインストーリーは、あれだけで独立している話ですので、本編未プレイの方に遊んでもらったところ、楽しんでいただけました。

アナザーにおけるお気に入りのエピソード

メインエピソードの革命に持っていくあたりはすごく好きです。挫折からの這い上がりっていうのが王道主人公っぽくて。
野心的な主人公を書いて来なかったので楽しかったですね。ああいう主人公いいなと思いました。野心的なサクセスストーリーもっと書きたい。ただ、あそこから転落していくのが、ファタモルだなっていう感じがしますね(笑)。
あと、今回の『Another Episode』はどんでん返しとかギミックに凝ったことはせず、ドラマ性にすごく振って書いてるんですよ。単純にドラマ単体としての面白さとか動きを頑張って書きました。

一番思い入れのあるキャラクターは?

皆思い入れはあって好きなんですが……、個人的に萌えるキャラでいうとモルガーナとAnotherの新キャラであるジェレンですね。
縹さんが萌えるというモルガーナとジェレン
 
あと、主人公はやっぱり一緒に物語を走り抜けた感じがあるので思い入れがあります。Anotherの主人公であるヤコポは良い意味でも悪い意味でも人間らしいキャラですね。
実際、自分が同じ立場になったらおそらく同じようなことをしてしまうかもしれないと、共感する部分があります。あの人は、ホントに辛いですね。頑張ってたのに、結果的に自分が悪いっていうのが、またキツイところで。
縹さんが共感するファタモルガーナの館 -Another Episode-の主人公ヤコポ
 

ノベクタクルの次回作について

ファタモルがこんなに展開する前までは、次回作としてSRPGをつくりかけていたんですよ。もともと、靄さんの絵がRPGに適してると思っていて。ダークファンタジーをつくろうとしてたんですよ。
方向性はヴァルキリープロファイル的な、死者の世界で派閥争いがあって、そこでSRPGが展開していくというものです。ただ、あまりにファタモル関連が忙しくなってしまって……。いつか動くかもしれない企画ですね。
ノベクタクルのSRPGのキャラ
ノベクタクルのSRPGのラフスケッチ
ノベクタクルのSRPGのラフスケッチ
ノベクタクルのSRPGのキャラ
 
 
 
 

『ファタモルガーナの館』メディアミックスについて

やれるところまでやってみよう、というところですね。これからも展開は考えています。

ゲーム作りにおける夢などはありますか?

自分が100%つくりたいものをつくり続けたいです。大きい企業でプロデューサーをやりたいとかいう望みは一切ありません。最終的に自分の書きたいお話を書いていかないとつまらないですから。ただ、そのためには、評価とか売れ行きっていうのが必要になってくるんですね。お金とか評価が何より欲しいもの、というわけではなく、極論すれば評価されなければつくり続けられないんですね。
お話がつくれれば、ゲームという媒体でなくてもいいかもしれない……、いや、やっぱりゲームはつくっていきたいかな。ゲームに対する思い入れは強いですね。趣味の中で一番時間を割くのはゲームですし。

PLAYISMのゲームでオススメできるものがあったら是非お願いします。

Defenders Quest』が好きですね。あれは面白いゲームでした。お話的にも毒のある感じがあって良かった。もともと、ステラテジーゲームが好きなので、『 メゾン・ド・魔王』も好きですね。あと、『 LA-MULANA 2』、期待してます!

影響を受けたゲーム

『逆転裁判』と『ダンガンロンパ』は、アドベンチャーをつくるにあたって、常に心の片隅にあるというか、ああいう構成にしないといけないなと。あとは、『女神転生』ですね。

とにかく今オススメできるノベルゲーム、『Fault』の話

マイルストーン2がSteamでもリリースされたんですが、あれだけのクオリティのものをつくるとやっぱりファンがつくんだなと勇気づけられます。『Fault』はSteamで好調なので、ぜひ日本のプレイヤーさんもやってほしいです。制作者のMunisixさんはとてもリベラルな思考の持ち主で、特にフィクションに関する女性の消費のされ方について深い考察をされています。
ゲームやそれに限らずエンタメものに出てくる女性が、いわゆるアイテム的なものとして消費されていたり、売るために女性性が削られてしまうとか、そういった問題点は現代社会にもすごく反映されていると思います。
悲しいですが日本はその辺りが後進国で、女性のキャラクターやいわゆるマイノリティな立場に気が遣われてないわけです。Munisixさんはアメリカの方なので、特に海外と日本の違いを肌で感じていらっしゃるのだと思います。
『Fault』は、それに叛旗を翻すような作品です。登場人物はみんな女の子なんですけど、彼女たち皆で少年漫画をやろうというようなものです。主人公の一人に女剣士がいるんですが、テンプレ的な行動は一切しないんです。
入浴シーンがあって、ついにラノベ的な展開になるかなと思ったら、ならない。あえてやらないんですね。かっこいいですよ、そういう理念が感じられて、とても良い。3時間4時間くらいで遊べますので、ぜひ。

このインタビューを読んでいる読者に一言お願いします。

ノベクタクルとして今後もつくり続けたいと思いますので、ぜひ応援してください。

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